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〔BREAKINGVIEWS〕米金融市場のトランプ・ラリー、「債券自警団」によって反転リスクも

米国の金融市場が「トランプ・ラリー」に沸いている。トランプ米次期大統領が掲げる規制緩和と減税への期待から、株式や暗号資産(仮想通貨)、米ドルが大幅上昇しているのだ。しかしこうした政策は財政赤字を拡大させてインフレをあおることにもなり、債券市場は荒れるだろう。「債券自警団」の動きによって、「米国は再び小さく」なるかもしれない。

 「結局はインフレなんだよ、愚か者」─。クリントン元大統領の参謀ジェームス・カービル氏が、米大統領選における経済問題の重要性を喝破した有名な警句の正しさが、トランプ氏の勝利によって再び証明された。現民主党政権は強い経済成長と低い失業率を達成し、しかもインフレ率は今では減速しているというのに、有権者は生計費の急騰ゆえに選挙で現政権を罰した。

 公式統計によると、米国の消費者物価はバイデン大統領が前回の選挙に勝利した2020年に比べて21%も高くなっている。NBCテレビの出口調査では、今回トランプ氏勝利の鍵を握った10の重要州で、有権者の4分の3がインフレのせいで過去1年間に軽度もしくは重度の困窮を味わったと答えた。そうした有権者の大半は11月5日の選挙で共和党に投票したとも述べている。

A line chart showing the percentage rise in the U.S. Consumer Price Index since October 2020
Thomson ReutersUS prices have risen sharply since Joe Biden’s election

 皮肉なことに、トランプ氏が約束している政策はインフレに火をつけそうだ。筆頭は全輸入品に対する10%の関税と中国製品に対する60%の関税。TSロンバードのダリオ・パーキンス氏の計算では、この規模の引き上げが実施されれば、米国の輸入品に対する税率は現在の2%から17%前後に上昇し、消費者物価指数(CPI)は1.3%ポイント押し上げられ、石油価格は20%上昇する。10月のCPIは前年同月比2.6%上昇し、ただでさえ米連邦準備理事会(FRB)の目標2%を上回っている。

 しかし株式投資家はさほど心配していないようだ。S&P500種総合指数 SPXはトランプ氏の勝利後に急上昇し、その後反落したが、大統領選前の水準を上回ったままだ。金融界はトランプ氏の発言から自分たちが聞きたいことだけを聞いている。つまり、同氏が実業家イーロン・マスク氏など民間人の助力を得て、金融業界で広範な規制緩和を行うということだ。

 こうした政策によって企業合併・買収(M&A)ブームが起こるとの見方から、モーリス MCやPJTパートナーズ PJTといったブティック型投資銀行の株価は5日以来で約10%も上昇した。

ファンドマネジャーらは、法人税を21%から15%に引き下げるというトランプ氏の提案も好感している。共和党が上下両院を制することが決まった今、この政策の現実味は高まったようだ。ゴールドマン・サックスによると、これにより企業の1株当たり利益は平均4%増える。

トレーダーは貿易戦争の可能性にさえ光明を見いだしている。小型株中心のラッセル2000指数 RUTが一時的にS&P500をアウトパフォームしたのは、保護主義政策が国内事業中心の企業を支えると考えられたことが一因だ。

A line chart showing the relative performance of the Russell 2000 index and the S&P 500 index over the past six months
Thomson ReutersUS small-cap stocks surged after Trump’s victory

暗号資産ビットコイン BTCUSDは11月5日以来で30%余りも上昇した。トランプ氏は米国を「地球の暗号資産の首都」にすると約束しているからだ。株やデジタル通貨といった「リスク性資産」を巡る高揚感は理解できる。財政政策の緩和、FRBが進行中の利下げ、規制緩和の組み合わせは、ただでさえ高い経済成長率をさらに押し上げそうだ。

しかしコストも発生し、その大半を国庫が担うことになる。超党派組織「責任ある連邦予算委員会」によると、トランプ氏の政策によって財政赤字は今後10年間で最大15兆5000億ドル拡大する可能性がある。財政赤字の対国内総生産(GDP)比率が既に7%を超えている以上、財政を拡張すれば米財政の持続可能性に疑問符が付きかねない。

債券市場はこのことに気付いている。米10年債利回り US10Yは9月の3.6%から現在は4.4%前後に上昇した。その理由は2つあり、1つはトランプ氏が引き起こすインフレ再燃によってFRBが本来予定していたよりも金利を高止まりさせざるを得なくなるとの懸念。もう1つは、債務水準拡大に伴うリスクプレミアムの拡大だ。

楽観派は、トラス英元首相が22年に財源のない減税案を示して英国債が暴落したような事態は、米国債では避けられると主張する。ドルは世界の基軸通貨であり、国債などの米国資産には外国から強い需要が確保できるというのだ。

問題は、債券利回りが上昇すれば株式投資が不利になるということだ。満期保有すれば株式より安全な債券のリターンが高まれば、投資家は株式を離れて債券に引き寄せられるかもしれない。S&P500など主要株価指数のバリュエーションが高まっている今のような状況では、なおさらのことだ。

もう一つ、債券利回りが上昇すれば企業の将来のキャッシュフローの割引率が高まり、株式の現在価値が下がるという問題がある。

口達者で知られるトランプ氏のこと、大統領就任後に公約を破ったり、経済と市場が悪い反応を示しそうだと見ればトーンダウンしたりする可能性は当然あるだろう。しかし公約を貫くなら、トランプ・トレードの次の局面は、これまで上昇していた資産を片っ端から売る取引になるかもしれない。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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